「青」背負う。読後の夢

2020.02.10 Monday

「青」背負う。読後の夢

 

 

窓の外。

 

はるか遠くに、白く陰った入り江が見える。

 

逆光に浮かぶ、大きな山のシルエット。

 

瑠璃の岩絵具を流し込んだような 濃い「青」が、
山の上に、どっしりと、のっかっている。

 

そんな、夢をみた。

 

 

もともと、山だったり星だったり、幻想的で壮大な夢をよくみるのだけど、
このところ、そういった夢を連日のようにみている。

 

それはきっと、小野正嗣さんの著書『九年前の祈り』を読んだからだ。

 

本の内容が直接的に反映しているのではなくて、
その「読後感」が影響しているように思う。

 


この作品を読み終えたとき、

私は何とも言い難い、奇妙な「心細さ」を抱えていた。

 

混沌とした夢から目覚めきれずに、

あやふやな記憶をずるずるとひきずっている感じ。


何か大切なものを失ってしまうような気がして、

この「不安」を手離すことができない。


いてもたってもいられなくなった私は、

もう一度確かめるように、ゆっくりと本を読み返した。

 

その心理は、夢のなかに消えゆく情景を、なんとか繋ぎ止めようと、
脳裏を必死に追いかけ、記憶を拾い集めようとする感覚にとてもよく似ている。

 

けれど繰り返し読んでも、私は得体の知れない「不安」を握りしめたまま、

どこにもたどり着くことができない。

 

全ては確かに繋がっているはずなのに、

気づけばいつの間にか、自分一人が、ぽつんと置き去りにされている。

 

そうなることがわかっているのに、私はそれでもなお、

幾度となく、この本を読み返したくなるのだ。

 

 

 

押し寄せるように、淡々と綴られる、憂いを帯びた文体。

 

容赦のない詩的な描写が、痛々しいほどに美しく、胸に突き刺さる。

 

自らの心に、深く沈みこむようなこの世界観から、

もう当分、抜け出せそうにない。

 

 

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