ウミガメの夜を抱く

2020.02.22 Saturday

ウミガメの夜に

 

 

先日の続きを、もう少し。
どうしても、書いておきたいことがあって。

 

小野正嗣さんの著書『九年前の祈り』には、表題を筆頭に4つの話が収録されている。


その2番目にあたるのが『ウミガメの夜』という話なのだけれど、
私は最初、これを読むのがとても苦痛だった。

 

産卵を終えたウミガメが、故意にひっくり返され、
仰向けになったまま、もがき苦しむ様子が、淡々と詩的に描かれている。

 

このエピソードがなぜ必要なのか、私には、まったく理解できなかった。
正直言って、嫌悪感すら抱いた。


もがき苦しむ「ウミガメ」は、私にとって「ウミガメ」でしかなく、
その描写があまりにも美しすぎるがゆえに、私は余計に腹が立った。

 

 

3番目の話に突入し、その中盤にさしかかったころ、
単独で成り立っているとばかり思い込んでいた4つの話が、
実はちゃんとつながっているのだということがわかり、
ウミガメの行く末にささやかな安堵を得ることはできたのだけれど、
それでも私は、どうにも合点がいかなかった。

 

なぜウミガメは、あんな仕打ちを受けなければならなかったのか。
再び読み返した後も、私はずっと、モヤモヤしていた。

 

 

なぜ。なぜ。
どうして、どうして・・・

 

 

ぼんやりと考えていたそのとき、私はまるで目覚めたかのように気が付いた。
我に返ったとは、まさにこのことだと思う。

 

 

・・・私だ。
あのウミガメは、私自身だ。
私そのものじゃないか・・・!

 

 

現実に背を向け、どこにも進むことのできないまま、
沈み込むように、一人、もがいている。


闇夜を仰ぎ、時間を遡ることしか、もはや考えていない。
遡ったところで、同じ過去を味わい、
この「今」に、再び戻ってくることしかできないのに。

 

 

そう思った瞬間、なんだか無性に、泣けてきた。

 

ウミガメが苦しみ、もがき続けたあの夜は、
人を捕らえて離さない、「孤独」そのものではないか。

 


私は、たどり着いた。
自分の確信に。

 

握りしめていた得体の知れない「不安」が、私の手のなかで
一瞬微笑んだかのように、愛おしく、きらめいたような気がした。

 

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